失語症記念館
南イタリアの旅

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31.嘘ばっかりだけど・・・

2002年 9月:

 ポンペイからナポリへ。歩き疲れていたので、鈍行電車でも座っていられるだけで快適。明後日はナポリ駅で乗り換えてヴェネチアへ行くので、駅の偵察も必要だ。初日のナポリは無我夢中だったけれど、今日は少し心に余裕が?・・・いやいや、そうは問屋がおろさないのがナポリ!
 国鉄ナポリ中央駅前に出るとガリバルディ広場がある。そこには真っ黒な人たちが沢山いる。日本でお目にかかる茶色の肌の黒人とは違って、漆黒の黒だ。地図で見ればすぐ下はアフリカだもの不思議な話ではないけれど、これだけ沢山いると圧倒されるし、話している言葉は明らかに未知のもの。路上に偽物ブランド品から、ゴミとしか思えないがらくたまで様々なものを並べて売っている黒人もいれば、ただただ何もせずうろうろしている輩もうじょうじょ。ちょっと異様な光景だ。でもお巡りさんの姿も多いので、少しだけ心強い気がする。
 なるべく目を合わせないようにしながら、でも荷物はしっかりと握りしめ足早に市場の方へ。広場を通り過ぎると細い路地がありそこが市場になっている。ここの市場は魚介類が豊富であった。ムール貝がこれでもかってくらいにどの店にもドドンとある。見たことのない魚もいるし、タコやイカの種類の多いこと。どれも目が飛び出るほど安い。これじゃあ、やっぱり太るのは仕方ないかな。本マグロなんか、日本人が見たら涙が出そうな値が付いているじゃない。
「奥さんどうだい、安くしとくよ!」
「・・・美味しそうだけれど、買えないよ」
「けっ!観光客かぁ、」買いそうもないと愛想が悪くなる。気が付けばもう他の女性に愛想良く声をかけている。ナポリ人は商才にも長けている。

 市場の中や通りにあるこぢんまりとしたレストランが美味しいに決まっているのさ!と信じてやまない私達。早速この界隈で食事をすることに。
 ジョバンニという店はそこにあった。小さな間口には「各国の言葉でメニューあります。」と言う英語の表示が。
「ちょっと怪しいんじゃないか?もしかしたらガイドブックに載ってるような有名な店じゃないの?」用心深いしっかり者の夫。
「そうかなぁ。決して高そうじゃないし、中のお客さんも金持ちそうな人いないよ。お腹が空いたからここで良いよ!ジョバンニっていう名前が気に入ったよ。」実はハンドルネーム、ジョバンニというメル友を持つまゆみ。そして本能で動くまゆみでもあった。結局ここへ入ることになった。
中は思ったより広く、はじっこのテーブルには近所のお爺さん達が赤ワインを片手にたむろしている。愛想良く出てきたのは太った世話好きそうなお母さんだった。
「うちは美味しいよ。よく来たね。どっから来たんだい?何人だい?」
「ジャッポネーゼだよ。」
「おおお!ジャッポかぁ」店の中にいたお爺さん達も目を大きくした。各国語のメニューを揃えているという店だろう?なのに日本人が珍しいのか?
「日本語のメニューもあるの?」
「ああ、ごめんね、前はあったけど今はイタリア語だけでね。でもパンフレットは英語のがあるから、これ持って帰って日本で宣伝してよ。」あやしい・・・。
 海産物が豊富な市場の真ん中なので海の幸スパゲティとピザを頼んで、白ワインを飲みながら待つことに。メニューはぼろっちかったが、もらったパンフレットはやけに上等なものだった。
 何々?リストランテ・ジョバンニはナポリの玄関口?ここからならポンペイもソレントもローマもミラノもひとっ飛び?イタリアの観光の中心ジョバンニだって?本当?ローマやミラノはちょっと遠いぞ!美味しい本物の南イタリア料理を提供している高級レストラン?赤ワインを飲んでいる爺さん達も、白いエプロンを腰に巻いてるお母さんも高級という言葉からはほど遠い。厨房の中はお父ちゃんが1人汗をかきながら働いている。パンフレットの中の写真は・・・何となくこのお店かなとも思えるけれど明らかに修正しすぎてる!宣伝文句は嘘ばっかり。でもお母さんの元気なイタリア語と大きな笑顔を見ていると憎めない。
 出てきたスパゲティとピザは掛け値なしに絶品。これだけは本物の南イタリアの味だった。トマトソースの中に沢山の魚介類のエキスがにじみ出ていて・・・まゆみ涙を浮かべて大感激!
「マダム、カメラ持ってるんだろ!一緒にここで写して現像したら焼き回しして送ってくれないかい。店に貼って宣伝するんだ。」ぱちりぱちり・・・。一体何回シャッターが押されたことか。店にいた全員が入れ替わり立ち替わり、私達とカメラに収まったのであった。まゆみはまたいつかここへ来て必ずこのスパゲティをもう一度食べるんだと心の中で固く誓った日であった。

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最終更新日: 2002/09/16