失語症記念館

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和音

 

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2008年01月18日:和音

全国失語症電子メールの会 有志の皆様

お尋ねの件について、お返事させていただきます。
疑問1.「どうして失語症には1級や2級がないのでしょうか。」の回答:

 身体障害者福祉法の障害認定において、失語症は音声・言語機能の喪失で3級、著しい障害で4級にしか認定されない現状については、私共もその生活の困難さに比べ判定が低すぎると思っています。これまで連合会の歴代理事長の方々も厚生労働省に働きかけを行ってこられたと聞いています。どのような働きかけをし、それに対して厚生労働省がどのように答えてきたか、ということは連合会にお問い合わせ下さい。

 「どうして」という問いには、厚労省に答えてもらうしかありませんが、失語症は、視覚障害や聴覚障害という感覚器官の障害に比べ、脳の中で起こっている障害なので複雑で分かりにくいということは言えるでしょう。視力や聴力の判定のように、客観的な分かりやすい指標で表すのは、失語症の場合にはむずかしいかと思いますが、厚労省がその気になれば、指標はできるはずです。
  失語症の人が抱える問題や生活上の困難について、厚労省の役人をはじめとして、あまり一般に知られていないことも問題の一因だと思います。

 なお、「失語症関係の等級の認定されている方は稀なようです」と書かれていますが、その根拠は何でしょうか? 昨年発表されたCANの調査では、身体障害者手帳を取得した失語症の人で、言語障害の認定を受けている人は約3割ということでした。
  しかし逆に言えば3割の方しか言語の認定を受けていない、ということになります。私の経験では、肢体不自由で1級や2級が取れていれば、わざわざ言語障害の認定を取らなくても、実際のサービスに変わりが無いと言われて取らなかった、という方が何人もいました。認定されるためには、都道府県の指定する医師に診断書・意見書を書いてもらう必要があります。通院している病院に指定医がいなければ、わざわざ指定医のいる病院に出向いて診断書を書いてもらわなければならず、文書料などの費用もかかります。そのために、肢体不自由のみで手帳を取得できればそれでよいという話になる場合も多いと思われます。

 医療機関での言語訓練を終了した失語症の人が受けられるサービスには、介護保険制度と障害者福祉の制度(障害者自立支援法)によるサービスがあります。厚労省の方針で介護保険が優先するので、介護保険が利用できない場合に障害者福祉の制度を利用することになります。
  失語症と診断されたら、介護保険の被保険者でない場合*や、介護保険に無いサービスを利用したい場合には、たとえ低い等級であっても、手帳を取得するようお勧めします。手帳を取得しないと、障害者自立支援法のサービスを受けられません。また、厚生労働省などの公的機関が実施している統計上の障害者の数は、この手帳の取得者の数で調べられることが多いので、同じ等級でも「言語障害」で手帳を取得する人が少しでも多い方が、戦略上は有利だと思われます。

*40歳未満の人、65歳未満の人で失語症になった原因が脳卒中など認められた疾患以外の人
疑問2.「外部から見えない部分はどうなるのでしょう。」の回答:

 「外部から見えない」のは、聴覚障害もいわゆる内部障害と言われる心臓、呼吸器、腎臓の機能障害も同じですが、障害認定を受けています。ですから、見える・見えないの問題ではないでしょう。

 「失語症患者なのに体は障害が無いため、身体障害者障害程度等級がない方がいます」というのは、体に麻痺がない失語症の方で、障害認定を受けられない人がいる、ということでしょうか。
  今回のご質問にお答えするために、改めて色々な資料を当たりました。その中に指定医のための手引書というものがあります。以下に手引書の障害等級の解説から「意思疎通困難の程度について」という部分を抜粋します。

ア)「喪失」とは、発声はあるが、ほとんど肉親との会話の用を成さない場合(中略)を言う。
イ)「著しい障害」とは、肉親との会話は可能であるが、他人には通じない場合を言う。
ウ)日常の会話が可能であれば、不明瞭で不便がある場合でも、障害とは認められない。

 ア)の場合は3級、イ)の場合は4級と認定されます。ウ)の場合は障害と認定されないわけです。指定医が日常会話は可能、と判断すれば失語症があっても障害と認定されないことはありえます。
  身体の障害があるかどうかに関わらず、日常の意思疎通が困難なのに、言語機能障害の診断書・意見書を書いてもらえないとか、都道府県による認定がなされないということがあれば、その人が不服を申し立てるのは当然として、その地域の友の会や連合会もその都道府県に抗議すべきです。友の会や連合会の存在意義はそういうところにもあるのではないでしょうか。

 ICFに触れておられますが、これに目をつけられたのはさすがです。ICFは障害に限らず、すべての人の生活機能を分類評価する枠組みですが、ご指摘のとおり、保健・医療・福祉サービスの分野では特にその考え方を浸透させたいものです。

  ここでおっしゃりたいのは、バリアフリーと言っても、建物や交通機関など、身体障害に対するバリアフリーは浸透しつつあるが、失語症のようなコミュニケーション障害についてのバリアフリーはまだまだだ、ということでしょうか。
  そういうことであれば全くそのとおりで、それを何とかしたいので、私達は和音を設立しました。和音の中心的な事業である「失語症会話パートナー」の養成は、失語症の人のコミュニケーションを助けてくれる人を育てよう、という活動です。そして会話パートナーによって失語症の人の直面するバリアを取り除き(バリアフリー)、社会参加を促進することを目指しています。

  三重県四日市市のよっかいち失語症友の会の堀本会長は、市の障害者団体協議会に所属して、まずその中で失語症についての啓発を始められ、その結果協議会の力を借りることもできるようになり、市に対して会話パートナーや要約筆記の必要性を訴えて成果を挙げておられます。
  当事者団体のそのような地道な活動こそが、道を開く一歩になるのではないかと思います。これまで失語症の方々はその障害故に、なかなか声を上げられずに来ました。現在でも多くの失語症者がパソコンを使えず、情報化社会からも取り残されています。そのような状況の中、電子メールという手段を使いこなす方々がおられるのは、心強い限りです。皆様のように、失語症者の置かれている現状を問題だと自覚された当事者の方々が声を上げていかれることも、とても大切なことだと思います。
疑問3.「失語症は死語(廃語)になるのでしょうか。」の回答:

 法律というのは身体障害者福祉法のことを言っておられると判断してお答えします。身体障害者福祉法の障害認定で「失語症」が使われていないのは、この法律は障害名を記載するものではなく、状態を記載するものだからです。肢体不自由でも内部障害でも原因や障害は様々ですが、病名や障害名は記載されていません。手帳には「脳梗塞による右上肢機能の障害」など病名が書かれている場合もありますが、法律でそこまで書くように規定しているわけではありません。先ほども引用した指定医の手引書には、「言語機能障害(失語症、運動障害性(麻痺性)構音障害)等と記載する」と書かれています。
 
  「日本高次脳機能障害学会では『失語症』と記載されている」とのことですが、それは学術用語として記載されているのであり、法律用語として記載されている訳ではありません。「失語症」という障害名は、医学用語として確立していますので、高次脳機能障害学会に限らず、医療・保健・福祉の分野では広く使われています。それらの分野で失語症についてどれだけ正しく理解されているかは別として、これからも用語として使われていくと思われます。
以上、お返事になりましたでしょうか。ご不明な点があれば何なりとお問い合わせ下さい。

     NPO法人・言語障害者の社会参加を支援するパートナーの会・和音
                                        代表 田村洋子

追加:失語症の人向けバージョン
皆様方のご意見を是非お聞かせいただきたいと思います。
「こういうところがまだ分かりにくいから、工夫せよ、」というご意見は大歓迎です。
和音理事 小谷朋子
疑問1.「どうして失語症には1級や2級がないのでしょうか。」の回答:
疑問2.「外部から見えない部分はどうなるのでしょう。」の回答:
疑問3.「失語症は死語(廃語)になるのでしょうか。」の回答:


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