失語症記念館
トイレ  

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2005年09月22日:後藤

 横浜駅の東西自由通路に面している北側コンコースにあるトイレは綺麗で良く利用している。入り口から二、三歩で右に折れ、二歩くらいで左に折れ、二人行き交いすることが出来る通路を五、六歩き、右に曲がるとトイレに入ることが出来る。
 夏の土曜の十時頃、五、六歩、歩くところで前から来る人もないので通路を斜めに行こうとしていた。一歩、二歩、歩くと突き飛ばされるような衝撃がある。右か、左かわからないが右に寄ろうとするのだが、寄ることができない。俺の後頭部に目はない。前に進むと、右側から強引に追い抜いた人がある。

「危ないな。気をつけろ!」
「障害者だとしても、通路の真ん中を通っているんじゃないよ!」
「人を小突いて、あぶないじゃぁないか!」
「俺の女房は障害者だが、真ん中を歩くことはさせないよ! そんなことはないよ!」

  その男は、六十か、七十歳くらいの眼鏡をかけ、ショルダーみたいのものを持っている。
ということは、奥さんを日陰者にしているのか! いや、奥さんの前では言いづらいので、こんな際に鬱憤を晴らしているのかも知れない。
  トイレは両側に並んでいて、それぞれ後ろを向き立って用を足しながらどなる。いつも真ん中を歩いている訳ではない。人がいないから斜めに歩こうとしていただけなのに、突き飛ばして挨拶もないなんてゆるすことができるか。
「突き飛ばして、行くなんてあぶないじゃないか!」
「障害者でも真ん中を通っているじゃないよ!」

  いつの間にか、用を足して出て行ったようだ。もれそうになって駆け込んだところで邪魔な障害者が真ん中を歩いていて右によってきて、強引に押しのけていくことになったのだろうが、私の方は転びそうになっているのだから何かの挨拶が欲しいところだ。
  しかし、あの男のほうでは、障害者の癖に何を言いやがると日頃思っている差別の言葉になってしまったのであろう。
  あの障害者の奥さんも、あの男も可哀想。
  いや、俺の方はどうなんだろうか・・・。
1.

2005年09月22日:言語聴覚士吉田 真由美 

後藤さんへ

大変不愉快な目に遭いましたね。
でもこのおじさんの心の余裕のなさに、かわいそうな人だと思わずにはいられません でした。自分よりも弱いと思える人にしか、威張れない人なのではないでしょうか。
人間の本当の強さというのは、内面から出てくるものです。失語症者とか、障害者とか、体や心が自立しているにもかかわらず自分から、さらりと名乗っている人たちは えてして笑顔に強さがあります。それは裏打ちされた心の強さからだと私は思ってい ます。だから、自分以外の人に思いやりを持ったり、理解してあげようと言う心の余 裕があるのです。

このおじさんは心体障害者だ。ねっ、身体障害者よりずっとかわいそうでしょ?


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最終更新日: 2005/04/29