失語症記念館
南イタリアの旅

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48.スカラ座にて〜幸せの条件

2004年 8月:

 「マダーム!」ホテルに戻ったまゆみを呼び止めるフロントの声。
「なんざんしょ?」
「品物が届いております。」一体どこから?ミラノの私の元へ・・・。
「おおおおおおおっ!!!!!」すごい、届いたんだ。ソレントで戻ってこなかったクリーニングの品が・・・。随分遅かったけれど・・・やるじゃないかイタリア人。ちょっぴり見直したぞ。段ボールの箱を抱えて部屋まですたこら。「おおおおおおおっ!!!!!」あけてこれ又ビックリ!私の物は白いポロシャツとキュロットパンツだけだった。あとは夥しい夫のパンツとシャツ。こんなの、わざわざ郵送してもらうほどのものだったのだろうか?大騒ぎしたのに中身はこれだけかい。
「これで好きなだけパンツを替えられるぞ」と夫は喜んでいたが、一体1日に何回パンツを替えれば気が済むのだろう。
  ミラノに来たら、スカラ座に行かなくちゃ。できれば何か切符がとれればと思っていたが、これは全く持って無理だった。だから見学だけでも。スカラ座の外観は大変シンプルで、その中の豪華さとのギャップが凄まじい。見学コースには客席の桟敷席も入っていて、ちょっとだけ貴族になった気分で舞台をちらりと覗く。2階にはオペラ博物館があり、スカラ座ゆかりの有名な作曲家の肖像画や胸像、それに楽譜や使用していた備品などが飾られている。
  まゆみが足を止めたのはマリア・カラスの舞台衣装の場所だった。ギリシャ不世出のオペラ歌手カラス。豪華なその衣装と、彼女の数奇な運命。決して晩年幸せではない死に方をしたカラス。20歳の頃100キロ以上あったというその体重を、舞台に立つために2ヶ月で50キロ近くダイエットしたという。
  たぐいまれなる声の持ち主は、世界中から絶賛される。それなのに、なぜあのような不幸せな人生の末路を送ったのか。死んだあといくらその声を絶賛されたとしても、その昔これほど高価な衣装に身を包んでいたとしても・・・哀しみだけが波紋のように広がってくるカラス。
  まゆみ的カラス考:カラスは、ファザーコンプレックスがあったのだ。だから、30歳も上の実業家のメネギーニと結婚に至ったのだと思う。そしてそれも束の間、ギリシャの船舶王オナシスの誘惑に乗ってしまう。このオナシスだって相当年上である。オナシスは人を愛すると言うことが本当に出来た人なのだろうかと常々まゆみは疑っている。
  確かにオナシスは女性から見れば世界的な億万長者であるからして、魅力はあることにはある。でもお金だけが幸せの尺度では決してない。その人間性というものが大事なはず。現にカラスはオナシスの子供を中絶させられもしたし、離婚までしたのに、オナシスは名声を得るために故ケネディ大統領夫人であったジャクリーン・ケネディと結婚してしまったのだ。ほどなくジャクリーンのあまりの我が儘ぶりに辟易したオナシスが、カラスの元へ時に戻ったりはしたものの、それも気が向いた時だけのいい加減なものだった。まゆみ的にはそんな無責任な男を再び受け入れたカラスの気持ちが理解できない。だいたい、人生案内なんかに載っている、裏切られても再び受け入れてしまうタイプの人で幸せになったという例を見たこと無いもの(断言)。
  カラスは男を見る目がないのだ。あれだけお騒がせで好き放題だった傲慢不遜なカラスでも、一生のうちに愛を捧げた男はこの2人だけだ。純情と言えば純情ではある。しかし、せっかくの自分の天賦の才をどちらの男もうまく生かしてくれるような懐の深さを持っていなかった。男を見る目がなかった事で人生までダメにしてしまったカラス。・・・ああ、もったいない。
  子供の頃父親と別れて育つ人は決して少なくない。その人達全てがファザーコンプレックスになるわけでもない。又ファザーコンプレックスになっていたとしてもその全てが不幸になるとも限らない。年の離れた人と結婚して幸せをつかむ人だっている。幸せになる人となれない人・・・何が違うのだろう。
  それは価値観だ。ゆがんだ価値観ではきっと幸せになれない。カラス・・・あなたはちゃんとした価値観を育てることが出来なかったんだね。実にもったいないなぁ・・・。
「まゆ、こんなところにまだいたのかぁ。何をしてるの、早く行こう。」
「・・・カラスがかわいそうだなぁって思ってさぁ。」
「我が儘女じゃないかぁ」
「うーん、でも愛した人に自分の存在価値を認めてもらえなかったんだもの、可愛そうだと思って。男見る目がないんだよね。」
「又よくわからないこと言ってる。ボクは君の存在価値が大きくて重くてヘロヘロダヨ!」
「わかんないこと言ってるのはあなたでしょう。箱からパンツばかり出てきて笑っちゃうよ。さぁ、ワインでも飲みに行こう」外は今日もピーカン!

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最終更新日: 2004/08/20