失語症記念館
素敵な人々

日本脳卒中協会 脳卒中体験記「脳卒中後の私の人 生」
平成12年度入選作品集より

失語症と闘いと友の会と

松岡 孝一空白
熊本県下益城郡在住空白

2001年 8月:

脳梗塞の後遺症として失語症になってしまいましたが、言語聴覚士先生(ST)に「私のパソコン」を書いたらどうかと勧められました。これがもの凄く訓練になりました。

1 言語訓練とパソコン
平成9年は、私の県職員として最後の締めくくりの年でありましたので、パソコンを新しく購入して、第二の人生に役立てようと意気揚々としておりました。
ところが、同年9月7日突然、脳梗塞を発症し、言語障害(失語症)になってしまいました。この後のリハビリに、パソコンが威力を発揮するとは思ってもいませんでした。
発症してから5日間くらいで、主治医にパソコンを使いたいと希望し、発症後1週間でパソコンを使用してよいと許可をいただき(家族の話では「時々目を開ける程度でだった」とのことです。)、電源を入れてマウスを触れることから始めました。(その時の状況を、娘は「マウスの使い方は、体で覚えているようだった」と言っております。)
そして、9月30日頃から文字入力を始めましたが、半日がかりで名前の4文字を入力するという状況でした。
11月5日から言語訓練を受けるようになり、徐々にパソコンを使う時間が増えていきました。
まず最初は、住所録を作り始めましたが、1日に2人〜3人のデータを入力するのがやっとでした。言語訓練のための文字等についても、早く言葉ができるようにと、朝から夜までパソコン練習をいたしました。
11月末には約250人分の住所録のデータ入力が終了しました。
最初の頃は、パソコンの文字一つ一つが難しく、入力できないこともありました。「あ」と「お」、「む」と「ぬ」、「さ」と「そ」の違いが分からないと言うこともありました。言葉が分かっていても、その言葉を口に出せないことがあります。そんなときパソコンで思い浮かべている単語を、入力して漢字変換していくうちにその言葉が、発音できようになることがしばしばあります。
例えば、7月4日ゴルフのスコアが、病後、初めて100を切りました。その時、非常に嬉しく、これでやっと体力的、精神的に病気を克服できたと心底から感激しました。
しかし、この「克服」と言う意味は、頭の中でイメージできても「こくふく」と言う単語が思いつきません。どんなに思い出そう、イメージしようとしても単語が出てきません。やっと思いついた言葉が「こくはく」でした。しかし「こくはく」と入力しても、自分がイメージしていた意味の漢字が出てきません。何回も何回も入力してみますが、やっぱり出てこないのです。
そんなとき、スコアがやっと100を切ったことが嬉しく、娘に電話しました。 「お父さんね、今日のゴルフでスコアがやっと100を切った。これで本当に病気を・こ・く・は・く・出来るように思う」と言うと、娘が「こ・く・は・く?・・・こ・く・ふ・くじゃない?!」と言うのです。
そうだ「こくふく」だ思いつき、急いでパソコンに向かい「こくふく」と入力してみました。すると、漢字変換して「克服」と言う単語が出て来て、これが自分が言いたかった単語だとはっきり分かり、きちんと発音できたのです。
このように、パソコンは、私の言語訓練に非常に役立っています。パソコンで日記を付けたり、家計簿をつけたりすることで、私自身の言葉の訓練になっていることは確かであろうと思います。

2 私の生き方・希望
film50.jpg

独唱する松岡さん
於2000年神奈川大会懇親会

サムエル・ウルマン(詩)の「青春」の中で、「青春とは、人生のある期間ではなく、心の持ちかたを言う。バラの面差し、紅の唇、しなやかな手足ではなく、たくましい意志、ゆたかな想像力、炎える情熱をさす。」(作山宗久氏訳)といっています。私も、いつまでも、いつまでも「情熱を保ち続けること」が、最も大切であると考えています。
現在、私は、身体は完全に回復し、かえって元気になりました。後は、早く言語障害を克服することです。さして、情熱を持ち続け、もうしばらくは「世の中の役に立ちたい」「脳卒中の病気の知識の普及の手助けができれば」と考えております。
倒れた後は、人生設計は狂い、仲間は離れ、世の中のことから遠ざけられ、おまけに言語障害では、その人の思いや心を伝えることもままなりません。
私も同じですが、同じ境遇の人々が全国にたくとんいるとおもいます。全国でもたくさんの「脳卒中友の会」や「失語症友の会」等があります。今後とも、同じ境遇の人たちが集う会として、また共通の問題解決の場・お互いの励みの場として「友の会」活動を続けていきたいと思います。


back
back

素敵な人々へ
素敵な人々へ

next
next


設営者:後藤卓也
設定期間:2001年3月15日〜2001年12月31日
管理:記念館
Copyright © 2001 author. All rights reserved.
最終更新日: 2009/09/10