失語症記念館

国家・政府が諮問すると思われる機関
日本コミュニケーション障害学会

 

Copyright (c) 2007 by author,Allrights reserved

2008年03月12日:日本コミュニケーション障害学会

全国失語症電子メールの会
    有志の皆様

 
日本コミュニケーション障害学会

理事長  大井 学 


 前略、昨年の内に失語症についての質問を頂いておりながら、返事が遅くなってしまいました。大変申し訳ありませんでした。
  日本コミュニケーション障害学会は、コミュニケーションおよびその障害の臨床・研究に関心を持つものが、相互の交流・研鑽により、それらに関する学問の発展に寄与することを目的とする学術団体です。お尋ねいただいたのは、日本の社会保障対策における言語障害の認定や支援策に関わることだと理解しましたが、私たちは職能団体ではありませんので十分なお答えをできかねるところがあります。また失語症だけに限らず、言語・コミュニケーションの障害全般にわたって考察することを、ご了解ください。
  理事会としての見解は以下の通りです。なお本論の要旨を別紙にして添付しますので、そちらも合わせてお読みいただければ幸いです。
草々

1. 従来の障害認定制度(障害者手帳)は、障害種別に縦割りとなっており、言語・コミュニケーションの障害に十分対応できていない。

2. 新しい介護保険法や自立支援法は、障害種別を超えて介護・支援サービスを提供しようとしており、その方向性は評価できる。しかし認定審査において言語・コミュニケーションの障害を適切に審査できておらず、また適切なサービスを提供できるに至っていない。

3. 言語・コミュニケーションの障害は現代社会においては、就労に大きな支障をきたすことがある。社会保障上の対策を十分講じる必要がある。また言語・コミュニケーションの障害には介護・支援機器の給付だけでは不十分で、人的な支援策が必要である。専門職の育成と同時に、介護職員・支援職員・教職員に対する講習や、地域社会におけるボランティアの養成が有効である。
 日本の福祉では、障害を3種に分類してきました。身体障害(身体障害者手帳)と知的障害(療育手帳)と精神障害(精神障害者保健福祉手帳)です。しかしこの考え方では、障害種別の縦割り対応を招き、その“谷間”に位置する障害に対応できず、長く課題として議論され続けてきました。最近ようやく広汎性発達障害は療育手帳または精神障害者保健福祉手帳で認定し、高次脳機能障害は精神障害者保健福祉手帳で認定できるようになりました。
  言語・コミュニケーションの障害について言えば、これらの障害種別のどれかに納まってしまうものではありません。どの障害種別においても、言語・コミュニケーションの障害は生じます。口蓋形成不全による構音障害・喉頭摘出による音声障害・運動障害性構音障害・聴覚障害による言語障害は、身体障害としての言語障害です。知的障害や自閉症には、多くの場合コミュニケーション障害が生じます。そして失語症は従来身体障害者手帳で認定されてきましたが、最近は高次脳機能障害の一つとして精神保健福祉手帳も取得できるようになっています。吃音はいずれの障害種別にも該当しません。
  言語・コミュニケーションの障害は障害3種別の考え方にはなじまず、むしろそれらを横断する形で生じます。言語・コミュニケーション活動は身体運動と精神活動の接点ですから、その障害をどれかの障害種別に分類処遇することは本来困難です。つまり言語・コミュニケーションの障害は、行政に正しく理解されていたとは言えません。
 リハビリテーションは最近その軸足を医療から介護へ、また病院から地域へと伸ばそうとしています。通所リハや訪問リハのメニューも出てきています。また障害者自立支援法は施設から地域へ、保護から就労へという流れを加速するものです。本人が所持する手帳の種別にかかわらず福祉サービスを利用できるよう、サービス提供体制は一元化されようとしています。
  しかし介護認定審査においては、言語・コミュニケーションの不自由さをチェックする項目はごくわずかで、失語症や構音障害と認知症や老人性うつとの区別が十分にできていません。結果的に介護現場において、それぞれの障害に応じた適切な介護やリハビリテーションが提供できていません。言語・コミュニケーションの介護にかかる時間は、実質的に計上されていないと言えるでしょう。
  自立支援認定でも事情は同じです。知的障害や広汎性発達障害と場面緘黙の区別が十分できていません。それぞれの障害に応じた適切な支援が提供できていません。言語・コミュニケーションの支援に必要な技法が、広まっていません。

 日本のような先進国では社会生活を営む上で、情報の交換・円滑なコミュニケーションが重要な役割を果たします。失語症など言語・コミュニケーションの障害があると、現代社会では就労上大変不利となります。知的障害や広汎性発達障害においても、同じようなことが言えます。就労に不利がある障害に対しては手厚い就労継続支援策や、所得保障が講じられる必要があります。
  手帳制度は税の減免とか、各種料金の減額に影響します。言語やコミュニケーションに障害がある人に対して、社会保障策の基盤として手帳制度における扱いを今後改善していく必要があると考えます。
  最近はIT機器の進歩により、意志伝達装置の使い勝手は飛躍的に向上しています。これらは障害がある人に普及してこそ、その価値がたかまります。意志伝達装置やAAC(補助代替コミュニケーション)の給付がさらに容易になることが望まれます。しかしどのように進歩したとはいえ、これらの機器を使いこなせない言語・コミュニケーション障害者の方が多数いることを忘れてはいけません。言語・コミュニケーションの障害に対する最も効果的な支援は、コミュニケーションの相手がその障害をよく理解し、適切に応答することです。機器よりも、人です。
  人的支援を拡充するには@専門職の育成 A介護職員・支援職員・教職員に対する講習 B地域社会におけるボランティアの養成が有効であると考えます。


   

back
back

国家・政府が諮問すると思われる機関
閉じる


設営者:後藤卓也
設定期間:2001年3月15日〜2001年12月31日
管理:記念館
Copyright © 2001 author. All rights reserved.
最終更新日: