失語症記念館
南イタリアの旅

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14.プリマベッラ

2002年 4月:

 「大変大変、すぐ起きて!」夫の情け容赦ない揺すぶりと興奮した声で夢の中から あっけなく呼び戻されたたまゆみ。だが、夜中からの読書と使い捨てのソフトコンタ クト着用のために眼球が乾燥して目が開けられない。ポケットからおもむろに目薬を 出して点眼。・・・ふぅ・・快感・・・いや開眼!素晴らしい天気だ。
「おお・・・・・!」まゆみは言葉を失った。

 あたり一面・・・お花が咲いてる!野原というのか、牧場?いや違う。・・・遠く には羊なんかが群をなして草を食べているのどかな

シチリアの春

シチリアの春
パレルモからアグリジェント
までの道のりで
風景。まるで絵画の世界に入って しまった感じ。青い空の下に広がる一面の牧草地。そこここに花が咲き乱れている。 白や黄色や、オレンジや・・・・その中にぽつぽつとポピーの赤がアクセントになっ ている。そうなのだ。このポピーの赤がポイントだ。辺り一面花盛り。それはまるで ミーシャの絵のひとこまのようだった。日本のお花畑とは全く違う。作られた雰囲気 が無い。ああ、そういう季節が来たんだと体に感じさせる圧倒的な迫力だ。NHKのハ イビジョンだってこうは感じられないな。そのくらい野に咲く花の躍動感が伝わって くる。

 車窓はめまぐるしく変わる。レモン畑、小麦畑、オレンジ畑・・・。みなパステル 画で描いたかのような美しい色彩だ。時には羊の群が何十頭も小さな道を横断してい る。待たされているトラックも又ゆったりした時の流れのひとこまの中の重要なアイ テムになっていた。そういった遙か彼方の情景はすべて絵本の1ページのようだ。生 命の息吹・・・ここはとっても豊かな土地なんだと実感する。

 きれい・・・みんなに見せてあげたい・・・でも写真では絶対こんな今の気持ちは 伝わらない。いつからか余り旅先で写真を撮らなくなった。思い出の確認はできるけ れど、その時々の感動した情景と写真の間にギャップがどうしてもできてしまうのが 分かたからかなぁ。
「プリマベッラってこう言うことなんだね?この島は本当に豊かな土地だねぇ。ああ、 すごいなあ。咲き乱れる花とたわわに実る果実・・・本当に豊かな土地だ。」興奮す る夫。
「・・・」
「プリマベッラ、プリマベッラ・・・イタリア語でプリマベッラって春のことだろう? この間の嵐で冬が吹き飛んで春がぱっと来たんだよ。ほら、あるだろう?絵にさぁ。」 「・・・」
「ほら、ボッティチェルリのさぁ・・・ふーって女神の耳に息を吹きかけると・・・ 花が咲き出してさぁ。で、それで妊娠しちゃうやつ・・・春はそういう豊穣の季節っ て言うことなんだね。ああ、それにしてもすごい風景だね。」
「うるさいなぁ、少し静かにしてくれない?」
「うるさいって・・・僕が起こしてあげなかったら、君はこれを見られなかったんだ よ。」恩着せがましい男である。
「帰りにだって見られるもんねぇ。」憎まれ口を叩くまゆみ。確かに夫が興奮するく らい美しい風景であった。

 しかし、夫はプリマベッラと連呼していたが、フランチェスコに言わせると、アー モンドの花祭りがある2月くらいにすでにイタリア人はプリマベッラを感じていると いう。でも私達夫婦は4月末でも十分プリマベッラを体中に感じることができたので あった。バスでてくてくというのもとても気持ちいい。お勧めである。
そうこうしているうちに10時にアグリジェントへ到着。約2時間で来てしまった。

 さていよいよ観光だ。帰りは2時30分のバスだから、4時間半しかない。
インフォメーションセンターに直行して、シティマップをもらいがてらバスの乗り方 を教えてもらって、トイレに寄って・・・これは重要なことである。インフォメーショ ンセンターのトイレは階段を下りて回り込んだところにありちょっと不安をかもし出 したけれど無料かつ綺麗であった。日本と違ってどこでもトイレが借りられるという わけでもなくアグリジェントでは遺跡の近くのトイレは有料だった。

 遺跡巡りの必需品。それは帽子とサングラス。直射日光を遮るところがないのも神 殿遺跡巡りの特徴である。だいたい天井の残っている神殿遺跡を見たことがない。私 はギリシャに行くまで神殿というのは床と柱だけでできている物だと子供の頃から信 じこんでいた馬鹿者であった。遙か昔は日陰があったのだろうが天井が崩れ落ちてし まった現在は日陰もないのだ。だからご婦人は日焼け止めも忘れずにね!

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最終更新日: 2010/08/29