失語症記念館
南イタリアの旅

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22.デポジット・バガーリを探せ!

2002年 6月:

 フェリーが着くベヴェレッロ埠頭まであと少し。
 甲板に出るとカステル・デッローヴォ、別名卵城が見えた。基礎の中に卵が埋め込まれていて、その卵が壊れると城も町も滅びるという言い伝えから卵城という名前で呼ばれるようになったらしいがその話を知らなければどう見ても卵とこの城は結びつかない。それに卵は腐ったらとても脆いはずだからとうの昔に粉々になってその存在すらなくなっているだろうに。イタリア人のすることはどうもよく分からない。
 海に突き出た埠頭の先の小島にそびえ立つ卵城。この城はディズニーのシンデレラが暮らすようなお洒落なものではなく、城塞という感じ。鎧とか甲とか・・・鉄仮面をつけた騎士が今にも飛び出してきそうな感じの城である。

「サンタールーチーーァーーーーサンターーーーーーーールチーーア!」
隣で気持ちよく歌うは我が夫。朝から本当にうるさい。でもそうなのだ。卵城はサンタルチア港にあるのだ。
「まゆ、これがあのサンタルチア港だよ。とうとう我々もサンタルチアまで来たねぇ。」
「はいはい、それでは降りますよ。」
「くううっ、ムードもへったくれもないやつだなぁ。」

7時、しめった朝の潮風を肌に感じながら私達はとうとうナポリの地に足を踏み入れた。ガラガラゴロゴロ、スーツケースを押す音があたりに響く。
 まずはこの大きな荷物を預けなければならない。荷物預かり所は当然駅にある!・・・ここでつい日本人の感覚が出てしまった、まゆみ・・・不覚!私達はまるで糞ころがしの夫婦のようにガラガラゴロゴロと・・・見えるけれど決して近くはない国鉄駅を目指してしまった。駅前に来ると階段が有るじゃないか。夫に荷物を託し、まゆみダッシュ!
「デポジット・バガーリはどこですか?」
「おお、マダーム、駅にはないよ。」
「ええーっ!」私のひどい驚きようにもっと驚いた駅員さん。
「マダーム、心配はない。ここからフェリー乗り場が見えるだろう?」
「はい、見えます。(まさか、まさか、私あそこからごろごろ来たんだよ。)」
「あそこのチケット売り場で聞いてごらん。すぐに分かるから。そしたらもう大丈夫さぁ。」駅員さんが笑った。駅員さんは知らないんだ。私達がゴロゴロガラガラあそこから今来たことを。涙、出そう!
「グラッツィエ・・・・」駅の階段を降りる足が急に重くなった。また10分も戻るのだ。恨めしそうな夫の目は無視。
「ああ良かったね。運動も出来て汗もかいたし、朝ご飯が美味しいよ。それにナポリの駅も分かったし、海辺の散歩だね。」
「・・・あきれて物が言えないよ。」
「じゃあ、言わないでよ。」糞ころかし夫婦はまたしても来た道を戻るのであった。
デポジット・バガーリとは直訳すると小荷物預かり所と言ったところか。フェリーチケット売り場の途中にも『P』と記されたデポジット・バガーリがあったがそこはすでに廃墟と化していた。
「あったよ!あった。デポジット・バガーリ!」
 やっと辿り着いたのは、屋根に大きなPのマークとDep.BAGAGLIと言う文字が入った看板をのせた昔の公衆便所というような建物だった。窓には鉄格子がかかってはいるけれど、何となく・・・見るからに怪しい・・・でも結構荷物が山積みになっている。
 それに私の前に若い女の人が1人荷物を預けた。男の人が1人で番をしている。みんな預けているから大丈夫かな。荷物は一つ2000リラ。140円くらいか?引換券にサインをして終了。
「ふう、これでやっと身軽になったね。」
「ふう、僕たちが降りたフェリーがこんなに近くに見えるのに、何で僕らはあんな遠い駅まで行ったんだろう。汗かいちゃったよ。」
「何言ってんの、いつまでも。ここは、ナポリだよ。気を引き締めていかないと、大変なことになるよ。」今回の失敗は100%まゆみのせい。自分が悪いときは寛大になれるものだ。不思議だなぁ。これが彼のせいだったらきっと私の頭には角が生えて目もさぞかしつり上がったことだろう。神様ありがとう。彼の失敗だったら、きっと彼は今よりも悲しい目にあったことでしょう。
「ずるいぞ、自分の時だけ都合良く解釈して。」
「隣人よ。右の頬を叩かれたら左の頬も出せ。だよ!」
「なんだよ、それはぁ!」さぁナポリ観光だ!

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