失語症記念館
南イタリアの旅

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23.ナポリというところ

2002年 7月:

 荷物を預けて身軽になった私達。ナポリでの最初の仕事・・・それは日本に電話をかけること。テレフォンカードを買って公衆電話に向かった。ホテル、しかもシチリア島からでは料金がかさむので、ナポリに行ったらゆっくりかけようと思っていたのだ。
 ところが全然繋がらない。ガイドブックを見ながら念入りに電話のボタンを押すのだが受話器の向こうからはイタリア語で、「この番号はおかしいからもう一度確かめるかやり直すように」というようなメッセージが返ってきてしまう。その日はとうとう同じ事の繰り返しであった。後日、やけになってプッシュホンをダッダッダッて素早く押したら難なく繋がった。つまり確認しながら電話番号を押すと番号の間に「間」が生じるのでうまく繋がらなかったらしい。結構高額のテレフォンカードを買っていたので、ついもったいないという腹立たしさがこういう行動になったのだが結果的には功を奏したのであった。

 ナポリは現在ローマ、ミラノに次ぐイタリア3番目の都市である。国家統一以前に大きく繁栄した都市なので、至るところに美しいモニュメントや教会があり、その内装の素晴らしさには目を奪われる。
 ナポリという土地は、紀元前にギリシャ人が新しい都市として築いたらしいが、ローマの支配下に置かれた後、ゴート人、ビザンチンの支配を受けた後、ナポリ公国として独立したのが763年。アラブ人との交易でその文化を融合し黄金期を迎えるが、1139年にはまたノルマン支配下となる。めまぐるしく変わる支配者にうまく立ち回ってこられたナポリ人。世渡り上手、楽観主義、快楽主義と言われているが、でもそうでなければ、今の今まで生き延びられなかったに違いない。

 さてまゆみが歩いたナポリの名所は?
 まずは、1300年代に建設されたサンタ・キアーラ教会。ここのキオストロ(回廊つき中庭)が素晴らしく美しい。クラリッセのキオストロと呼ばれている。マヨルカ焼きである。少しくらい前までは相当朽ち果てていたらしいが近年修復が進んだので、今はとても鮮やかで綺麗。黄・緑・青をふんだんに使って焼かれた白いタイルが織りなす装飾の美しさは、絶品。乾燥したナポリの空気と抜けるような空の青さに全く動じない明るさがここにある。「ああ、なんだかとっても南イタリアだわ〜!」回廊のフレスコ画もまたシックで良かった。しかし、いくら綺麗でも暑いし、歩くから疲れる。
「ああ、でも本当に綺麗な柱だわ。」マユルカ焼きで飾られている柱と柱の間は、これまたマヨルカ焼きのタイルが貼られており、ベンチくらいの高さで繋がっているので、当然ちょうど座るのに持ってこい。周りはレモンの木々。青い空に向かって伸びやかに広がる空間。全てが私のものって感じ?
「お姫様はここでちょっと休憩じゃぁ。」
しかし、すぐにそれは妨げられることになった。
「ノンノンノン!マダーム、そこには座っちゃいけないよぉ!」係員が飛んできた。
「あ・・・すみませーん。・・・『けちけちするなよぅ、ちょっとくらい良いじゃないの』」あ〜あ、またやっちゃった。ベンチに座って叱られたまゆみであった。でもどこにも座るなと書いてなかった。後でここの写真を見返したら、私が着ていたジャケットを織りなす色がここのマヨルカ焼きの色と同じだったので、顔だけ黒くなっていた私はまるでカメレオンのよう。保護色に身を包まれ完全な風景に一部と化していたのであった。

 教会の中にはいると正面にドドーンとパイプオルガンがそびえているのは、13世紀に建設されたサン・ドメニコ・マッジョーレ教会。聖具室にはいつもの如くため息しかでないような素晴らしい調度品もさることながら、アラゴン家とスペイン国王の棺が頭上に45箱も並べられている。棺に使われている大理石の色と模様の多様さ、本当にこれも美しい・・・が、さぞかし重量もあることだろう。木造建築ではとてもこんなもの並べられないね。
 南イタリアを回って本当に思うこと。宗教の狂おしいほどの力。よく聖人の遺骨らしき長骨が祭ってあったりする。骨の両端には金箔が押され、ビロードでくるまれていたり、またはルビーやエメラルドを散りばめた箱に入れられていたり。・・・ふぅぅぅ・・・まゆみ、宝石大好き。聖具に散りばめられた石達のその大きさに目を見張り、その数に『1個くらいもらいたい・・・』と庶民感覚の心を揺すぶられ・・・見るにつけ、眺めるにつけ辛いのだ。その大きさと言ったらおもちゃ屋で小さな女の子が親に買ってもらったりする宝石箱セットに入っているあの指輪やネックレスくらいの大きさで、・・・涙出ちゃう。それがごろごろ使われているのだ。もう、いい!聖具室の宝石は諦めた。心に残る美を見に行こう!

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最終更新日: 2002/07/10