失語症記念館
南イタリアの旅

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32.袋の中身

2002年 12月:

 美味しい食事をしたら、元気回復。午前中見てきたポンペイの遺跡は、彫像や壁画などその殆どがレプリカ展示である。その本物が展示されているという博物館に行ってじっくりとこの目で拝もうじゃないか。ポンペイの復習だ。
 国立考古学博物館は広い。本当に巨大だ。入り口にある1階は大理石彫刻部門になっている。有名で、かつ、とてつもなく大きな彫刻がデデデンと展示されている。『ファルネーゼのヘラクレス』や『ファルネーゼの雄牛』などはローマのカラカラ浴場で発掘されたらしい。これらはもうオリジナルが殆ど存在しないと言われているギリシャ彫刻を古代ローマ人が模刻したという作品群である。均整の取れた美しい裸体のオンパレード。でも全てが大きいので、インパクトも強い。フィレンツェにしてもそうだが、こういう旅をしていると、もう裸はいいかなという気になってくる。
 例の『お尻のヴィーナス』もここにある。池田満寿夫がこれを見るためにだいぶ苦労したという話があるが、私達はすんなりと見ることができた。
「池田満寿夫が一番美しいお尻と絶賛したらしい。」と何度も夫から聞かされていた私は、どんなお尻なのだろうと楽しみにしていた。等身大の後ろ向きのヴィーナスだ。・・・なんか親近感がある・・・余り大きくもなく、ピッと上がっているわけでもなく・・・あれっ?
「私のお尻だぁ」そうだ、自分のお尻にそっくりなんだ。池田満寿夫がもし生きていたら、私にモデルになってと惚れ込んでくれたかも。でもお尻だけのモデルというのは・・・ちょっと悲しい。
「ああ、確かに似てるかも?」夫もすんなり同意した。まゆみ、この日からお尻だけ、やけに自信がついたのであった。しかし、まゆみのお尻は生物(なまもの)である。日々廃れていくのであった。
 さて、ここでの目的はポンペイで発掘された品々の本物を見ることである。ああ、確かにあるある。午前中に見たものばかりだから何だか懐かしいというか、親近感もひとしおだ。でも、レプリカと本物・・・どっちがどっち?と言われたら自信のないまゆみであった。ただこれらの壁画や彫刻、モザイク達が、2000年も前に作られたものだという事実が不思議な気分にさせる。2000年という歳月で、人間の何が変わったのだろう?体も顔も嗜好もたいした変化がないようだし。2000年後もし人類が存続していたとしたら、やっぱり私のような気分で今の私達の文化に触れるのだろうか。
 ポンペイ関係を一通り見た後、夫とはぐれたまゆみ、地下室に降りていく。空気がしんとしていた。後で知ったことだが、ここはイタリアで2番目の規模を誇るエジプト・コレクションを持っている。それがこの地下だったのだ。すごいのなんの。なにがすごいかって・・・日本では考えられないような展示の仕方。一応棺がガラスケースの中に置かれているものもあるがそのまま棺だけが中身を入れたまま、ぽんと床に置かれていたりする。朽ち果てた棺の角がなくなっていて、ミイラが見えるのだ。もしくは蓋がずれていたり壊れてたり。イタリアの明るいミイラと違って包帯にぐるぐる巻きになっているエジプトのミイラはちょっと怖い。ましてその包帯のような布が朽ちていたりする。展示品の数の多いこと、でも管理も展示の仕方もイタリアらしくいい加減だ。誰も見ていないのだ、触ろうと思えば触れてしまう。・・・触りたくないけれどね。
 ふと目の前の棺を見れば、その傍らに副葬品であったと思われる袋が置いてある。覗き込むと袋は破けていて中が見えていた。「あっ」まゆみ・・・言葉を失う。なんと足が・・・それもくるぶしあたりで切断された足が・・・ウエーンッ!10本も束ねられている。まるでキーホルダーのように。その足は皆ひからびているから大分縮んで小さくなっているが紛れもなく5人分の足だった。きっとこの棺の主人は足が悪かったのだ。だから甦ったとき不自由しないようにと・・・。ああ、でも足を切られた人たちは一体・・・。
 アフリカだかアメリカだかの縮み首や、頭の毛がついた皮だけのものとか、訳の分からないものが沢山展示された部屋もあった。自分以外の気配もなく、さすがのまゆみも途中からはどんどこ脇目も振らずに歩いた。ミイラはイタリアのが一番性に合う。縮み首や頭の皮や髑髏(しゃれこうべ)はもう結構!
 こんなものが沢山展示してあるのに、係の人の姿もないし、窓が開いていて外からの風がそよそよと入ってきていたりする。これも南イタリアの大らかさか。
 出口近くの彫刻を熱心に見入っている夫の姿がやけに懐かしく、愛しい。
「縮み首あったでしょう?見た?」
「見ないよ。そんなもの。やっと戻って来たな。君は本当にミイラとか気味の悪いものが好きだね。」いいえ、好きではありません。でもすごかった。ナポリにある国立考古博物館、いろんな意味ですごい博物館であった。

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最終更新日: 2002/12/07