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33.まゆみ冷や汗をかく |
2002年 12月: |
国立考古博物館を出て、改めてその建物を見上げた。眩暈がするほど大きい。フィレンツェやヴェネツィアの博物館や美術館も大きいけれど、全く違う。一番の大きな違いはお客の数。フィレンツェのウフィツィ美術館なんか、2時間待ちなんてざらだと言うし、見ていてもごちゃごちゃドコドコ人がひしめいていて、何分かおきに団体が有名な絵や彫刻の前にドッーと集まって説明を聞いたかと思うとまたイナゴの大群みたいにドーッと次のポイントに移動する繰り返しである。南イタリアの美術館や博物館はどこもそんなに混んでいない。それに展示の仕方が厳格でないので本当に触れるような距離でじっくり見ることができる。少し怖い時もあるけれどミイラとだって、縮み首とだってじっくりと向き合い語り合えるんだ。また、もし来ることがあったなら、もう少し、歴史や美術を勉強してこようと少しだけ思ったまゆみだった。
てくてくてくてくナポリ中央駅に向かって埃っぽい道を歩き出した私達。600メートルも行っただろうか、地下鉄の入り口を見つけた。何々、カボール駅?どれどれ、地図を見ると一駅乗れば中央駅に連結しているじゃない。これに乗っていけばらくちんだ。さて切符はどうやって買うのだろう。きょろきょろ辺りを見回すと自動販売機のようなものがありどうやらそれで買うらしい。買い方が書いてある。しかし、まゆみのイタリア語は文盲である。ようやく駅の名前を見つけて金額まで辿り着いたが・・・どこにお金を入れるのか、どのボタンを押すのか見当も付かない。お金を入れようとしてもうまく入らない。そこにお巡りさんのような格好をした青年がやってきた。
「どうしたのですか?」
「切符を買いたいのです。2人分。ナポリ駅までね。」
「OK!僕がやってあげましょう。」こうしてどうにか切符をゲット。こんな感じで助けられることの多い私は日本で困った外人を見かけたら助けてあげようといつも固く誓うのだが、まだ1回しか助けてあげたことがない。借りは増えるばかりである。
さて、地下鉄に乗れば楽に駅に行けると喜び、切符を買う苦労というこの2点に頭が飛んでいた2人。地下に降りる階段のその深さがだんだん冷静な思考を取り戻させていった。ここの地下鉄は本当に深かった。そして今日は土曜日、官庁街はお休みである。全体的に閑散としているホーム。ほどなく電車が入ってきてドアが開いた。乗り込んだとたん、車内の視線が私達に集中した。
車内は外人ばかり・・・いや外人は私達だ。部外者は私達だけなのだ。みんなこっちを見ている。異質な臭いがするのだろうか。夫が私をドア側に移動させ、私に覆い被さるように立った。ガードしてくれているのだ。乗っている人たちの身なりも目つきも余り良くない。独り言を大きな声でわめいている人もいる。アフリカ人の目ってなんて大きくて、血走っていて、ぎらぎらしてるのだろう。黒くて表情が分からないと言うよりアフリカ人の知り合いがいないので見当がつかないのだ。イタリア人と思える人たちもみんな変な感じに見える。くさい人もいるし・・・。冷たい汗がだーっと出てきた。
「今思い出した。ナポリの地下鉄って、世界の3本指に入る治安の悪さだった・・・。乗っちゃいけなかったんだ!」
「黙って!バックに気をつけて。しっかりと掴んでいなさい。」じっとこちらを見つめる目と私の目が合ってしまった。心臓がバクバクしてきた。
ドアが開いた。ナポリに着いたのだ。はじけるように電車から飛び降りると足早に人が沢山いる方へ向かった。
「ふうううううううううううううううーーー」大きな大きなため息をついた。命は助かった。本当に怖かった。エジプトのあの朽ち果てたミイラよりも何万倍も怖かった。特に何もされなかったけれど迂闊でした。くわばらくわばら!
「いやぁ、怖かったねぇ。」
「怖かったじゃないよ!地下鉄は危ないでしょ。か弱い女性を連れてるのに!なにかされたら、あんたなんかあっという間にやられちゃうよ。本当に怖かったよぉ。」
「だから僕がガードしてたじゃない。」
「あんなのガードのうちに入らないよ。まゆは汗を沢山かいちゃったよ。」
「せっかく守ってやればそんなことを言うし、それに乗ろう乗ろうって君も言ったじゃない?まぁ、何かあっても君は武器を持っているから大丈夫だよ。なんせ強いからなぁ。へへん」武器って爪のことか?
私達が乗った地下鉄が本当に危険だったかどうか定かではない。しかし今回は何もなかったから良かったけれど、知らない国で地下鉄に乗るときは、危ない区間や時間、曜日をきっちり調べておかなければ・・・。今日も沢山実地勉強をしたまゆみであった。 |
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設営者:後藤卓也
設定期間:2001年3月15日〜2001年12月31日
管理:記念館
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最終更新日: 2002/12/17