失語症記念館
南イタリアの旅

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36.青の洞窟・・・そこは

2003年 1月:

 青の洞窟の入り口が見えるところまで来ると、私達のモーターボートのまわりに手漕ぎボートが蟻のように集まってきた。波は決して静かでは無い。モーターボートのおじさんが、手漕ぎボートに乗る人たちを振り分ける。
 スゴーイ、私の祈りが通じたのだ。一緒になった若い恋人達はイタリア人。若いって事はお金もそんなに持ってないじゃないですか?それに何と女の子の方は英語も話せるっていうし!手漕ぎボートのオッちゃんは私に英語で乗船代を言った。すかさずイタリア語で彼女に船のお金を聞いたら問題なし。よし、さい先は良いぞ!この調子で行けばぼられることは絶対にない・・・と思いたい。頭の中はイタリア語と英語と日本語がごちゃ混ぜ状態!
 さてなぜ、手漕ぎボートに乗り替えるのか。それは洞窟へ入る入り口がすっごーく狭いのだ。乗っていく船はちょうど・・・うーん、ハゼ釣りに個人的に行く船みたいなんだけど・・・わかるかなぁ。4人乗ればもう隙間がないほど。まん中に乗っていた私は自分の手の置き所にさえ困ったほどである。でもこうしてこの狭い入り口を目の前にしてみると、風が強ければ晴れていても青の洞窟閉鎖の理由が自ずと頷ける。洞窟の入り口には、鎖のような物がぶら下がっている。船頭さんがこれにぶら下がるような感じで波とのバランスをとりながらグーンと反動をつけて入っていくのだ。だからほんの少し波が高いだけで、この入り口がもっと狭まってしまいとても危険になる。ここでちょっと情報を。一番前の席は洞窟に入るときすっごく濡れるんです。もしあなたが青の洞窟に行くときは一番前に座る確立は4分の1。100円ショップで合羽を買っていって使わなければ・・・売る?さてあなたはいくらで売るかな?100Lでは利益がないぞ!
 船頭さんが鎖を手に取る。「1,2の3で頭を下げろ!」頭を下げておかなければ確実に岩にぶつかって大変なことになる。船頭さんの掛け声と共に一斉に頭を下げてボートにへばりつく私達。怖くて目もつぶってしまったぞ。
「OK!あれがここのシンボル、ライオンの頭だ。」
目を開けると洞窟の奥にはローマ時代に彫られたというライオンの顔が光っていた。
「後ろを見てごらん。」
「うわーーーーーーっ!」後ろを向いて初めて分かった。ここが青の洞窟と言われる由縁が。大粒のブルートルマリンの石の中に閉じこめられたような世界がそこにあった。キラキラキラキラ・・・バスクリンのマリンブルーのような色。水の光が洞窟内に反射して全てがブルートルマリン。思い描いていたよりもずっと明るい青・・・と言うより日本語でいう水色の世界がそこにあった。光がどう屈折するとこういう色になるのだろうか。船頭さんに言われるままに手を水の中に入れたら、あーら不思議!自分の手までがブルートルマリン色に染まった。
 洞窟の中は、「ベッラー、ベッラー」という言葉が嵐のように反響している。イタリア語で言うと「きれい!きれい!」。本当に感動したときや美味しいものを食べたとき、人間の口から出る言葉はいつも単純明快な形容が多いような気がする。
 洞窟の中でバカチョン写真が写るかどうか分からないけれど、一応シャッターを何度も押して、思い出を封じ込める。
外はまばゆい光にあふれていて、目がちかちかした。さっきまでのあの水色が遠い世界の出来事のようだ。さて手漕ぎボートからモーターボートへ戻る前の儀式がある。
「綺麗だったでしょう?その綺麗にチップを!」
イタリアンカップルが5000Lを手に握っているのが見えた。フムフム5000くらいが相場なのね。私もチップの準備をしなければ。
『ガーンッ!!!』3000Lしかない。ここでお釣りがもらえるなんて事はあり得ない。夫も細かい持ち合わせが無いという。なんておまぬけなの。ここまでパーフェクトだったのに・・・。まゆみの小さな脳味噌ターボ全開!・・・チーン!よーしっ。手の動きもターボ全開。突然船の上で、千代紙を折りだした東洋の女にイタリアンカップルも船頭さんも目をまん丸くして見ている。
「ふーっ。ごめんなさい、これしかないの。だからこれもチップにつけます。ありがとう」3000Lと一緒に千代紙で作った折り鶴を手渡すと
「オオ、マダーム、ありがとう!」船頭さんの特大の笑顔と些少のチップで私達の青の洞窟への旅は終わった。
 ああ、今回もあせったけれどどうにかぼられずに良い旅ができた。何かの時に千代紙は役に立つ。皆さんも旅のポケットに千代紙を忘れずにね。
 さぁ、カプリ島探検を始めよう!

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素敵な人々へ
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最終更新日: 2003/01/04