失語症記念館 失語症と風景
Copyright (c) 2004 by author,Allrights reserved

失語症の風景:19

大事なつまらないこと

言語聴覚士 吉田 真由美
フリーランス

2021年03月

 私たちは、日々、テレビや新聞やネットや友人知人から、それはそれは沢山の情報を得ている。それらはすぐ忘れても良い無意味なものから、何かしらの問題解決のためのインデックスになるもの、生きていくために重要な意味を持つものまで幅も広い。そのほとんどは、目や耳で受け取る。
 全失語症になると、じっくりと的を絞った内容でなければ深く理解するのは難しい状態だ。だから、台所仕事をしながらテレビのドラマをチラ見するとか、ご飯を食べながら新聞の見出しに目を通しながら、家族の会話を聞くなんて事は至難の技である。

 昔、みのもんた氏が全盛だった頃、彼が番組で『ブロッコリーは○○に良い!』とか『ココアは○○に良い!』と言ったとたん、スーパーなどからブロッコリーやココアが売り切れるという事態を招いた。家事をしながら、テレビを見ていた人や、テレビを見ていた人からその情報を聞いた人たちがどれだけ多いのかびっくりだ。  しかしながら、全失語の人たちは、テレビやラジオのまくし立てるような会話は深く理解できないし、友人と電話で長話もしないし、解説書などを読むこともほとんどない。

 ある程度の年になれば、自分が受診している病気やもらっている薬、検査結果などが友人同士の会話の中心になったりするので、自分がその病気になっていなくても、内心面倒に思っても、自分に関係あるなし関わらず、そういった病気の症状などの知識が蓄えられてくる。決して正確とは言えない知識であっても知識があるかないかで、何らかの症状が身の上に起こったとき、そのストレス度合いは大分ちがう。

 失語症が重い場合、家族との関係性は濃いが、同年代の友人との付き合いはあまりない人が少なくない。言葉が出にくいこともあり、相談を持ちかけられる友人がいる人はほとんどいない。
 女性の場合、40代前半で失語になると、更年期障害などの知識がないため、更年期にさしかかり動悸や急に身体が熱くなって汗が出たりすると「死ぬかもしれない!」とパニックになってしまう人もいるくらいだ。同年代の友人達との付き合いがあれば自然に耳から入ってくる情報も、こういったコミュニティがなければなかなか知識として持つことは難しい。
 一般の人にとって、その年代なら知っていて当たり前という知識であっても、入力ルートが制限されている人たちにとって、それは当たり前に持てる知識ではないことを周囲が理解しなければならない。今はつまらない情報でも時と場合が変われば重要な知識というものもたくさんある。私たちは、それを自由に取捨選択できるけれど、失語の人は難しい。

 ホームドクターや担当STが現場で加齢に合わせた知識の提供ができると、安心して暮らせる失語症者が増えるのではないでしょうか。
 友の会などは、そういった面で、年齢も発病してからの時間も様々な方がおられるので、他の人の近況報告から知識が得られた、先輩会員やSTのアドバイスなどが役だったと言われる方も多く見られます。


失語症と風景
失語症の風景


Copyright © 2002 後藤卓也.All rights reserved.
最終更新日:2021/03/09