失語症記念館
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その1 ご質問に答えて

言語聴覚士 佐野 洋子
江戸川病院

2003年 2月:

 失語症の回復について、2002年9月23日放送の,NHK教育テレビ「にんげんゆうゆう」「シリーズ 失語症 回復への道」(4本)の第1本目に話をしました。また脳の研究者の三村masaru.gif先生のお話が明快で、皆様に好評でした。
 放送の中で紹介された43歳の失語症の方の回復経過が、多くの反響を呼びました。その方は、あの放送の後、念願の復職をされ、「出来ることを頑張ってやる」をモットーに元気で会社に通っておられます。といっても失語症としてはまだまだ障害が重く、周囲の方々の励ましによって何とかなっているのが現実です。ご本人の誠実なお人柄と、積極的な生き方に、私どもも感動してしまいます。是非放送のVTR(NHKまたは各地の失語症友の会で入手できると思います)をご覧下さい。
 失語症の回復については、続けてまたお話をしていきたいと思います。
質問:失語症が回復するメカニズムについて、最近解ってきたことがあると言うことですが、簡単にお話下さい。
質問:人はだれでも母国語を自由にあやつることができます。この機能は人間だけが、脳の一定の場所にあらかじめ持って生まれてくると考えられます。その脳の場所が壊れたのが、失語症ですから、その回復には本来言語機能を十分には担当しない脳の部位が関わって、機能を取り戻さざるをえません。ですから根気のいる長期間の機能回復訓練が必要になるわけです。
 失語症状の経過を長期的に見ていますと、回復の経過は損傷された脳の場所や、発症した時の年齢などによって違いますが、損傷が広くても、長期にわたって回復していく場合が少なくないことが解ってきました。
 運動神経の損傷による麻痺など、脳の一次機能障害は回復が非常に短期間で頂点に達してしまいます。それに反し、脳の広い部分を動員して機能の再編成をする失語症などの、脳の高次機能の回復には長い時間がかかりますが、機能回復の可能性も大きいのです。
質問:損傷されていない傷の周囲の部分の脳や、言語野ではない反対の脳が関係して言語機能が回復する可能性があるということですか。
質問:そうです。ここ10年で、核医学による脳の血流や代謝についての研究や、機能的MRIと言う手法などによる研究で回復の機序がだいぶ解ってきました。
 それらの研究によると、発症から数か月の回復は、損傷部位と同じ側の大脳の中での機能修復によりますが、数年といった長期にわたる回復には、反対側の半球が加わっての機能修復がおこるようです。
質問:どのような条件が失語症の回復と関係するのでしょうか。
質問:「回復に関わる主な要因」はいろいろあります。
 1)脳損傷の部位と残っている脳の状態
 2)年齢
 3)利き手など言語機能を担う左右大脳半球の側性化の程度(個人差)
 4)適正な言語訓練
 5)社会的・心理的環境
 *まず損傷された脳の部位とその広がり方は、回復の程度に関わるもっとも大きな要因です。どの場所の損傷ではどうかといった詳細はここでは触れませんが、もちろん損傷の広さが広いことは不利です。また言語音を聞き分けにくい「語聾」と言う症状や、あるいは発音の運動の命令がうまく出せない「構音失行」といった失語症の周辺症状、これは言葉の入り口と出口の症状なのですが、失語症に比べれば脳の低次の機能であって、治りにくい症状なので、これが合併していると、言語機能の回復と言う点では不利な条件となります。でも「構音失行症状」は訓練でかなりよくなります。
 逆に訓練をサボるとよくならないし、消えることも難しい症状です。
 また反対側の脳もふくめて、小さい脳梗塞が彌慢性にある場合や、脳が萎縮するなどの脳全体に病変がある場合は、回復は思わしくない傾向にあります。
 *次に失語症になったときの年齢ですが、これは回復に大きな影響をおよぼします。
子供の時に発病した場合、失語症の痕跡があまり認められないほど良くなることが多いといわれています。成人の失語症の場合、発症年齢は若い程回復が良い。大まかな目安ですが40歳以下では、それより年齢が上の方より改善が良いと思います。ただし60歳を超えた方でも、長期間回復を続ける方があり、一概に年齢が高いからといって最初からあきらめることはありません。
 *また3番目の左右の大脳半球が言語に関する機能についてどの程度役割分担をしているか、これを側性化といいますが、それによっても回復の程度や回復の進み方も違います。左利きの人の多くは右の半球に言語野がありますし、右利きであっても、反対の大脳半球に言語機能がある程度またがって存在しているなど、個人差があるようで、回復の程度を初期の症状で一概に決め付けることは望ましくありません。
 一般に左利きの人は回復が良いといわれています。
 男女では、女性の方がこの側性化の程度が緩やかで、失語症の回復は良好であるとの説もありますが、詳しくは実証されていません。
 *4番目の適正な言語訓練を、十分な期間行うことはとても大切なことです。
残念ながら、我が国では十分な期間の言語訓練を失語症の方が受けられるだけの社会的環境が整っていないのでいろいろな制約はあるでしょうが、2〜3年は集中的に言語訓練をしてみて欲しいというのが私どもの考えです。また失語症の方もあきらめないで、自分でも勉強していくことが大切だと思います。
 字を書くなど訓練をしないでおくと、低下してしまう機能もあるようです。
 *5番目の社会的・心理的環境が良いかどうかは、もちろん失語症の回復に大きくかかわってきます。失語症の方も職場や、地域社会などにどんどん社会参加して行きましょう。また御本人だけでなく、家族も含めて心理的な苦難を背負われて、抑うつ状態になりやすいのですが、これが回復に悪い影響を与えることは明らかです。
 皆で励ましあいながらやっていこうという活動は、回復という点でも大変重要です。

素敵な人々へ
失語症の回復へ

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最終更新日: 2003/02/17